2020.03.24


【トラック特集インタビュー】
「社会受容性」の発見が鍵 リスク恐れず挑戦しよう 

東京大学 石川 正俊 教授

 いま世界経済を席巻している、米国のGAFA(ガーファ)に代表される「価値創造企業」。先進技術を活用し、社会に受け入れられる価値のあるサービスや製品を生み出し、新たな市場を築いてきた企業だ。東京大学情報理工学系研究科の石川正俊教授は「顧客のニーズに対応するだけではなく、『社会受容性』のある新しい価値を生み出す事業の展開が成長の鍵を握る。物流企業も価値創造企業を目指し、リスクや失敗を恐れず挑戦し続けることが大事」と話す。

 ――あらゆる領域で先進技術の活用が進む。
 石川 AI(人工知能)や5G(次世代通信規格)、IoT(モノのインターネット化)、ロボットなどの技術は開発されただけでは価値を持たない。技術をどう価値につなげるかが重要になる。
 ――どういうことか。
 石川 技術は学ぶことができる。が、どう展開して応用するかは学ぶのではなく、考える必要がある。例えば、5G単体で新しい価値は生まれない。効果的に利用できる方法を考えることにより、初めて「新しい価値」を持つようになる。

グーグル成功の理由

 ――モノやサービスも同じ。
 石川 そう。製品やサービスも開発しただけでは価値はない。具体的な効果やメリットがあってこそ価値を持つ。米グーグルのインターネット検索サービスが一例。世界中の情報を簡単に検索できる仕組みの開発を通じ、グーグルが社会に提供したのは、優れた検索サービスではなく、「検索により個人の仕事が効率化する」という価値だ。
 ――何が価値につながった。
 石川 グーグルの検索サービスが大きく成功したのは、社会に受け入れられる条件、言わば「社会受容性」があったから。それまでも検索はできたが、特にユーザー側で機能性を求めたり、解決すべき課題があったりしたわけではない。グーグルの検索サービスの登場で、「検索により個人の仕事が効率化する」という従来存在しなかった価値が見いだされ、社会に受け入れられたことが、新しい市場を生み出すことにつながった。

「次の物流」デザインを

 ――社会受容性は、ニーズと違うのか。
 石川 社会に受け入れられることはニーズに適合することと思われがちだが、別だ。顕在化した要望や課題といったニーズに応えることは企業活動としては重要。ただし、見えているニーズに合わせて事業をつくり出すことはたやすいが、既存の市場なので独創性や競争力は乏しく、大きな利益にもつながらない。
 ――社会受容性が価値創造のキーワード。
 石川 そうだ。社会受容性を発見して事業を展開できる企業こそが「価値創造企業」。だが、社会受容性を見つけるのは難しい。ニーズがないことが起点になるからだ。さらに社会受容性を見つけるためには新しい事業に挑戦する必要があり、収益性や費用が壁となることもある。

POCで反応を見る

 ――有効な手は。
 石川 プルーフ・オブ・コンセプト(=POC、概念実証)という方法がある。事業のアイデアを低コストで試作しながら具現化し、社会に提示すること。企業であれば、POCで生み出したモノやサービスに対する社会の反応を見て、社会受容性の有無を確認し、反応が良ければ事業化すればよいわけだ。
 ――自身も過去にPOCで「じゃんけんロボット」を製作。
 石川 高速画像処理で相手が出した手を認識し、高速のロボットハンドで必ず勝つというもので、動画共有サイトに投稿したところ再生回数が300万超。「ロボットの高速化」という社会受容性があることが分かった。いまや、じゃんけんロボットの技術を応用したロボットが実際に企業の工場で活躍している。
 ――POCは中小企業に難しいのでは。
 石川 確かにPOCはコストがかかる。しっかりとした財政基盤を持ち資金に余力のある大企業に比べれば、中小は取り組みにくいかもしれないが、やり方はある。リスクを抑え、身近なところから挑戦することも大事だが、自社の強みに新しいノウハウを融合していく考え方も必要。じゃんけんロボットの開発も画像処理技術とロボットの2つをつなげることから始まった。
 ――新しいノウハウとは。
 石川 例えば、異業種との連携で新しい価値が生まれる可能性はある。物流企業であれば、自社が得意とする地域に何を投入すれば新しい価値を提供できるかを考え、手を組むべき企業を探していくことが大切。連携に失敗することもあるが、駄目だったら速やかに撤退すればよい。
 ――ダメージを軽減するリスク管理も重要。
 石川 そう。価値創造企業になるにはリスクが伴うのは当然。社会受容性を掘り起こすには、POCを通じて挑戦と失敗を繰り返し数をこなす必要がある。ハイリスクハイリターンの考えで、従来なかった価値をいかに引き出すかが大切だ。
 ――恐れていては何も始まらない。
 石川 物流企業に限らず日本には保守的な考え方を持つ企業が多い。だが、リスクを負って新しいことに挑戦しなければ、大きな利益は得られない。
 ――物流企業はどうすれば。
 石川 物流は現在の機能を維持しながら、まだ誰も知らない「次の物流」をデザインすることが必要。独創性と豊かな発想がその源泉になる。業界にはしっかりとした事業基盤を持つ企業もある。だからこそ新しいことに挑戦してほしい。

記者席 経営と技術に精通

 石川教授は、主に半導体集積化技術などの新しい技術を活用した、ロボットの制御を研究。インタビュー前、専門分野の技術的な話題が中心になるものと想定していたが、違った。
 語られたのは、企業経営と技術開発両方に精通したノウハウに裏付けられた経営工学的な話。かつては東大の産学連携を担当し、民間企業と学生・研究者をつないだり、東大の教授が企業の社外取締役に就きやすくするための仕組みづくりに尽力した。当時の経験から、「企業の技術開発に対する考え方、企業人とのやりとりを学んだ」。
 東大内にベンチャーキャピタル(ベンチャー企業への投資機関)も構築。ただし、無償のため、「ファウンダー(創設者)ではなく、デザイナーと呼んでほしい」と笑う。

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