2015.03.24


【インタビュー】
物流の内向き議論、終止符を 他産業と戦う力を付けよ

日本創成会議座長 増田 寛也氏

 昨年5月、日本創成会議が公表した2040年(平成52年)の人口推計は日本中に衝撃を与えた。このまま人口減少問題を放置すれば、896市町村で若年女性が5割を切り、消滅の危機に直面するという。人手不足に悩む物流にとっても人材確保が一層難しくなれば、産業を維持できなくなる。日本創生会議で座長を務める増田寛也野村総合研究所顧問は「物流も経済全体を巻き込んで問題解決に当たらなければならない」と警告する。

 ――25年後に半数の自治体で「消滅の可能性がある」との推計を出した狙いは。
 増田 政府を動かすには、(将来の危機的な状況)を広く国民に伝える必要があると考えた。平成52年までに国の人口は約2000万人減るとの予測はあるが、具体的にどの地域で減るのか示したデータはなかった。目をそらし続けてきた「不都合な真実」を国民が認識し、国を挙げて問題解決に取り組まなければならない。

出生数低下と東京一極集中

 ――人口減少の原因はどこにあるか。
 増田 主な要因の1つが「出生数の低下」。ピーク時に年270万人だった出生数は、いまや100万人程度に減少。出産の9割を占める20~39歳の若年女性が減り続けると、女性1人当たりが生む子どもの数が増えても人口は増えない。それなのに、若い女性は子育ての難しい東京に流出している。
 ――「東京一極集中」も人口減の主要因だと。
 増田 東京に流入する人口の実に95%が29歳までの若い世代。東京は家賃、教育費などが極めて高い。保育所といった子どもを預かる施設も少なく、こうした環境で女性が出産し子育てをすることは難しい。
 ――東京に人口流入が続くとどんな弊害が。
 増田 人口流入の最大の問題は、高齢化が加速すること。10年後には団塊世代が全員、後期高齢者となる。いまも4万3000人の介護施設待機者がいるが、さらに施設が必要になる。東京に人口が集積するメリットよりデメリットが大きくなっている以上、どこの地域にどのような都市を造る必要があるか考えなければならない。

若い世代の働き方を見直す

 ――出生率を高めるため、企業に求められる取り組みは。
 増田 同年代の男性を含めた「若い世代」の働き方を見直さなければならない。例えば、女性と男性が差別なく働ける職場をつくるにはどうするか、若い社員の意見をくみ取る必要がある。結婚、出産で一時的に仕事を離れる女性に、国や自治体による切れ目のない支援も当然欠かせない。
 ――支援とは。
 増田 北欧では妊娠、出産、子育てまで一貫して相談に応じ、必要な支援を行う「ネウボラ」という地域の身近な拠点がある。日本も保育体制などを充実し、企業やそこで働く若者の負担を公的に軽減するべきだ。

人増やす大きなうねり必要

――物流企業の女性活用には、経営者の意識改革が必要になる。
 増田 労働人口は平成42年にかけて1000万人減るといわれる。出生率向上で労働力不足が緩和する部分もあるが、それだけでは限界がある。物流機能を維持するには女性、高齢者の活用は必須。「飛び込んでみよう」と思える業界にするため、労働条件を少しでも改善しなければならない。
 ――確かに業界では活躍する女性は少ない。
 増田 物流で深刻化するドライバー不足の問題は今後も続くだろう。運転免許の取得要件緩和などの方策は当面の策でしかない。女性が出産、子育てをしやすい環境を整える原点に立ち返ることが不可欠。業界内でただ苦労するだけではダメだ。
 ――業界は荷主団体にもっと声を挙げるべき。
 増田 経団連、商工会議所が本気で取り組まなければ問題を解決できないのは当然のこと。だが、これからは荷主団体を超え、金融業界を含め経済界全体を巻き込んだ大きなうねりをつくり、人を増やすための議論を重ねるべきだ。
 ――なぜ金融業界が関係するのか。
 増田 地方銀行は東京近辺の企業を中心に資金を貸し出している。これでは地域産業を強くすることはできない。若年層の都市部への集中に伴い地銀にあった預金がメガバンクに移るなど、厳しい状況にある。金融も危機感を持たないと、地方の労働人口減少は止められない。

古い体質成長につながらず

 ――地方から東京への人口流出を防ぐには地元産業の存在が重要。だが生産性が低く、物流が成り立たない地域もある。
 増田 中小企業は労働者のコストカット、パートの多用などでやり繰りする古い経営体質が残っている。地域のサービス産業が成長産業にシフトするには、いかに生産性を上げられるかにかかっている。
 ――どうすれば物流企業の生産性は高まる。
 増田 業界自身が考えるべきことだが、例えば都心で行っていた物流を地方に回すことも一案だろう。流れを変えるのには痛みを伴う。しかし時機を逸すると痛みは一層広がる。物流の抱える問題を経済界全体で考えなければ、いずれ限界が来る。

限界来れば産業は回らない

 ――それなのにトラック協会、所管官庁の国土交通省などは「内向きの議論」に終始している。
 増田 デフレ経済下、物流はコストカットの役割を引き受けてきた。給与削減、長時間労働が続いていたことで事故も起きている。問題を放置し続ければ、女性ドライバーが増えることは絶対にない。日本の産業も回らなくなってしまう。
 ――物流業界のあるべき姿とは何か。
 増田 他産業と戦っていく姿勢が必要だ。レストランなどサービス産業が維持できているのは、新鮮な貨物が各店舗に時間通り届いているから。単にコストカットの部分を引き受けるのではなく、他産業のコストたたきを跳ねのける力を持たなければならない。
 ――具体的には。
 増田 他産業に向けたアイデア発信や提言、提案を実現する力など物流の果たす役割は大きい。安全を担保しながら、スピード感を持ち、効率的にモノを動かす仕組みなど「時代の変革」に取り組むことが求められる。

記者席 業界への厳しいエール

 著書『地方消滅』(中公新書)が新書大賞2015に輝くなどいまや「時の人」。新聞やテレビの取材、講演に引っ張りだこ。国の有識者会議の委員も数多くこなし、多忙な日々を過ごす。
 何とか実現した取材も、確保できた時間はわずか30分弱。足早に応接室に入るや否や、あいさつも傍らにすぐ取材が始まった。だが、そこは一流の知識人。客観的なデータを基にした説明は端的で分かりやすい。物流関係者には耳が痛い「鋭い指摘」も次々飛び交う。
 3年前、全日本トラック協会主催の事業者大会では記念講演も経験。物流が経済を支える重要な産業と理解しているからこそ、変革を求める。取材が終わりかけた時に発した「業界の姿勢が変わらないとドライバー不足は解決できない」との言葉は重い。一流の知識人から出された問いに、業界はどう答えるのか。(小林 孝博)

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