2019.01.01


【新春特別インタビュー】
物流こそが文明築いた 経営者は「未来」を語れ 

京都大学学際融合教育研究推進センター 宮野 公樹准教授

 「学問とは何か」を研究する京都大学学際融合教育研究推進センターの宮野公樹准教授。〝当たり前〟に感じるものを問い直し、原点を振り返ることで違う世界が見えてくるという。では、物流とは何か。宮野准教授は「これまで文明を築いてきた。物流の変革には未来を開く力がある」と語る。

常識を疑うことが学問

 ――研究のテーマに「学問とは何だろう」を掲げている。
 宮野 大学は本来、学問を担う場だ。だが大学には業績主義がまん延し、論文をどれだけ提出したかが評価基準となっている。同時に、論文は常に新しい解を求められるから長い間、学問の世界では専門化というより、むしろ細分化が進んできた。結果、ある現実の課題を解決しようとすると、細分化された多くの学問的知識を連携させる必要が生じてくる。
 ――それで「学際」。
 宮野 異分野の学問と学問の際(きわ)を結び付ける「学際」が、この10~15年ほど流行している。かつて学問には、共通の価値観があった。学者は分野が違っても同じ学問観を持っていれば、話ができる。いま共通する土台や目標が失われ、学者は自らの研究と違う分野に興味を示さないのが実態だ。
 ――宮野准教授が考える学問とは。
 宮野 米国の哲学者リチャード・ローティは「大学は社会の実験場」と語った。ある一つの事象に対して一歩引いて、時には長期的な見地から社会と対峙(たいじ)する。突き詰めると、わが身を振り返ること、常識を疑うことが学問だ。
 ――現代の大学は学問から懸け離れているのか。
 宮野 あらゆる大学の現場で、目先の課題ばかりを追う研究が行われ、利潤を追求する一般企業の研究と何ら変わりがない。「役立つかもしれない」研究ではなく、「役立つとはどういうことか」を深く追求することがあるべき学問。近々出版する自著『学内からの手紙(仮題)』でもこの問題を取り上げている。

技術に縛られている

 ――いまの物流をどう捉える。
 宮野 近年のキーワードはAI(人工知能)、IT(情報技術)、自動運転。技術に依存しているのではと感じた。だがこれまで技術が進歩したおかげで、さまざまなコストが低減されてきた。物流は技術と切り離せない。逆に言えば、物流は技術に縛られている。
 ――技術の進歩は物流の未来を照らすのか。
 宮野 違う。目的がコスト削減だけなら物流に夢や未来があるとは言えない。完全にコストゼロを目指すといったスケールであれば話は別だが、あり得ない。経営者は、技術以外で物流の未来を語ってほしい。
 ――技術以外とは。
 宮野 人類の歴史、文明は物流によって築かれてきた。古代ギリシャ、ローマの文献にはインドの塩が登場する。人間の体と生活に欠かせない塩が整備された道を通って遠く運ばれ、新たな文明が光り輝いた。現代の華やかなグローバリゼーションも土台に物流があってこそ。ということは、物流の変革には未来を切り開く力がある。

素晴らしさに気付きを

 ――ものすごい力だ。
 宮野 物流のこれまでの軌跡にまず気付き、自負を持ってほしい。どれほど素晴らしいサービスを顧客に提供していることか。米国産の豚肉は人の手間をかけて運ばれているにもかかわらず、近場の国産豚肉よりも消費者に安価に提供されている。また、遠くの荷物が当然のように翌日には手元に届く。肌感覚で考えれば実に不思議な現象だが、全て物流の力だ。
 ――発想を少し変えるだけで社会は変革できる。
 宮野 例えば、日本が抱える社会問題の解決に役立つ。人口の一極集中は、都市に住んでいても地方で生産されるモノが簡単にかつ低コストで手に入ってしまうから。輸送する料金は一般に遠くなればなるほど高額。仮にいまよりも高い料金を設定すれば、地方の特産物は入手しづらくなる。すると、都市に住む人は特産物を求めて旅行したり、移住したりする可能性だって考えられる。物流のシステムを少し変えるだけで、解決できる課題は少なくないだろう。

〝捨てる〟勇気が必要

 ――物流は築いてきた一連のシステム、人・モノの資産に縛られている側面もある。
 宮野 これまで築いたシステムを捨てることは容易ではないが、疑うことは不可欠。いまあるシステムは決して完全ではない。捨てる勇気を持つことが、いつか、どこかで求められる。捨てなければ、より多くのコストを払い続ける恐れもある。一例を挙げれば、世の中で取り上げられているドライバーの長時間労働を改善するために、土日を休みにしてはどうか。難しいかもしれないが、やってみなければ何も生まれない。一歩踏み出す勇気が求められている。
 ――理屈は理解できるが、実践できるのか。
 宮野 ある会社が従来と異なる戦略やシステムを採用する場合、子会社を立ち上げ実験的な施策を追求する。成功であれば子会社を吸収すればよく、失敗であれば放棄すればよい。
 ――新たなアイデアを得るヒントはあるか。
 宮野 「類推」という考え方がある。〝モノを運ぶ〟と近い業界は何だろうか。血液が好例で、赤血球は体内の各組織に酸素を届ける。血液を専門とする研究者や医者と話せば案外、答えを持っているかもしれない。同じ悩みを持つ業界との連携も検討してみてはどうか。
 ――業界にメッセージを。
 宮野 物流は社会の基盤だからこそ、「安ければいい」との考え方は絶対におかしい。物流は今後も新しい文明をつくり続けてほしい。

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